狛江市長選・市議補選:予想外の大差の影に変化のきざし

6月22日に投票が行われた狛江市長選挙は、現職で共産党推薦の矢野裕氏(61)が、現職の強みをみせ、自民・公明推薦の前市議・高橋清治氏(57)、民主・国民・ネットなどが推す映画プロデューサーの伊藤正昭氏(41)の新人2候補を大きくリードして4選を果たした。接戦、さらには現職危うしという声まで聞かれた選挙前の予想を覆す結果の影には、市民の選挙に対する意識の変化のきざしもみてとれる。

選挙戦は、いずれも政党がからむ三つどもえの争いになったが、大きな争点はなく、矢野氏が過去12年の実績と保育の充実などを訴え、2候補の多選や財政再建の遅れなどの批判をかわした。
高橋氏は、行革の遅れや閉塞感からの脱却を訴える一方、自民と公明の推薦を得て、組織固めにも力を注いだが、保守地盤をまとめきれなかった。
もうひとりの新人伊藤氏は、若さを武器に財政再建と多選批判に重点を置くとともに、無党派層を取り込もうと民主や国民の大物国会議員の応援を得たものの、風を起こすまでには至らなかった。
高橋氏が市議会議員を辞職して市長選に立候補したために行われた市議補欠選挙は、ネット公認・民主推薦の元議員・池座俊子氏(56)、新人で保守系無所属の経営コンサルタント・浅野和男氏(53)、新人で共産公認の政党職員・岡村伸氏(30)の3人が出馬した。
いずれも市長選の各候補とアベック選挙に加え政党もからんだ三つどもえの選挙戦を展開したが、浅野氏が市長選の高橋氏よりも1800票も上回る得票で、保守票をまとめるかたちで初当選した。
投票日前日、午後8時の街頭選挙活動終了と同時に矢野氏、伊藤氏の2人は、狛江駅頭に立ち、手を振ったりお辞儀をして最後の追い込みに必死の姿勢をみせた。一方、ぶ厚い組織にのる高橋氏は、ウグイス嬢などと記念写真をとるなど余裕をみせていた。
しかし、フタをあけてみると、一時は苦戦が伝えられた矢野氏が他の2人を大きく引き離して4選を果たす結果となった。大きな争点がないなかで、矢野陣営が、前回136票の僅差にキモを冷やしたこともあり、終始緊張感を維持し、路地裏まで徹底した選挙活動をくり広げるなど総力戦で臨み、保守層にまで浸透した矢野人気を票に結びつけるのに成功したと言えそうだ。
一方、組織票では圧倒的に有利だったはずの高橋氏は、頼みの保守層を伊藤陣営に切り崩され、アベック選挙を展開した浅野氏にも及ばない得票にとどまった。選挙事務所は、開票前の楽観ムードが一変、沈痛な空気が流れた。前市長がとばくで辞任するという異常事態の直後に行われ、矢野氏が初当選したときはともかく、その後、組織の数から言えば「負けるはずのない」選挙に3回も負けている。今回の選挙結果は、組織頼みの旧来の手法からの脱却を有権者からつきつけられたとも言えそうだ。
政治に初挑戦の伊藤氏は、PTAをはじめとした地域活動と若さを武器に予想外の善戦した。無党派層を大きく取り込むまでにはいたらず、3位に甘んじたものの、新しい流れを起こすきっかけになるかもしれない予兆を感じさせた。
また、候補者を招いた公開討論会を市民が開くなど、有権者の側にも新しい動きが出始めるなど、狛江の「政治風土」が変わってきているとも言えそうだ。