半世紀前の狛江の風景を描いた日本画家の写生帳が同市内でさきごろ見つかり、2月21日から小田急線狛江駅前の泉の森会館で初公開される。
「丸山永畝(えいほ)スケッチ展 よみがえる狛江『村』の風景」(泉の森友の会主催、NPO法人k-press/狛江のまちを考える会共催)は、富士を望む多摩川のほとり、広がる田畑に実る作物、雑木林に点在するかやぶき屋根の家々、小川で野菜を洗う人々など都市化の波が訪れる前の昭和20年代半ば、田園地帯だった狛江を描いたスケッチ画1193点を縮小印刷して展示する。会場にはスケッチ画のほか狛江市岩戸北の自宅で丸山画伯と同居していた長男の丸山督雄さん(85)から借りた肉筆画3点と絵筆、落款(らっかん)、画伯が長女の初節句に贈った手製のひな人形も飾られる。
いきいきとした筆使いで描かれたスケッチには、描いた日付とおおよその場所が書き込まれており、多いときは毎日数枚描いている。
本画を描く時に必要となる素材の動植物や風景を記録するために描いた側面もあるが、当時の写真も少ないだけに、半世紀前の風景や生活を知る上でも貴重な資料になると、専門家からも注目を集めている。また、昔の狛江の地図も展示、描かれた風景を覚えている人からその場所に印を付けてもらうコーナーも設ける。
丸山永畝(本名・忠治郎、1886〜1962年)画伯は、長野県上諏訪町(現・諏訪市)出身で、画家をめざして20歳で上京。花鳥画の大家として知られる荒井寛畝に師事し、寛畝が主宰する会のほか文部省美術展覧会、帝国美術院展などに出品、入選作もある。主に軸物、屏風、襖絵などの作品を手がけ、代表作としては昭和初期に描いた目黒雅叙園所蔵の「叢中」、郷里の諏訪法光寺の「梅園」などがある。同門の画家らと若いころからしばしば写生に出かけ、和綴じの写生帳を数多く残した。
スケッチ展は、遺族の督雄さんの知り合いの主婦からの連絡で写生帳を見せてもらった中和泉の稲葉和也さんの発案によるもの。稲葉さんは古民家の専門家で世田谷区の文化財保護審議会委員を務めており、写生帳に描かれた多量のスケッチを見て「狛江の原風景が描かれている」と感動、資料的価値が高い、とまとめて保存するよう遺族に要請。その結果、遺族からの申し出で、世田谷区立郷土資料館に寄託された。
寄託されたスケッチは全部で約2万点にのぼり、これまでに戦後狛江に住んでから以降の約8000枚が整理され、うち狛江市内を描いたものが1193枚あることがわかった。郷土資料館では、3月に寄託品の展覧会を催すが、それに先立ち狛江市内を描いた分を地元で初公開することになった。
会場には、はがき程度の大きさに縮小印刷したものを17枚のパネルにして展示してある。展示にあたった人たちは、「すごい数でびっくりした。1点ずつ見たら時間がかかりそう」と丸山画伯の画業と緑豊かな農村地帯だったころの狛江に思いをはせていた。
同展は2月27日までで、時間は午前10時〜午後8時。入場は無料。
問い合わせは泉の森会館(狛江市元和泉1−8−12)電話03(5497)5444。(交通=小田急線狛江駅北口下車徒歩1分)
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