川崎市麻生区高石の高石神社で1月12日、江戸時代から地元に伝わる正月行事「やぶさめ」が行われた。新しい年の平安や豊作を祈って丸木の弓で的めがけて矢を射るもので、流鏑馬保存会の会員に加え、訪れた家族連れなど200数十人も交代で挑戦、的に命中すると見物の人の輪から歓声が上がっていた。
同神社の「やぶさめ」は、馬に乗らず立ったまま弓を射る「歩射」と呼ばれる形式で、川崎市内では多摩区の子之神社、長尾神社など5カ所で行われている。
やぶさめは、社殿で新年を祝う祈年祭に続いて、午前10時ごろに始まった。宮司が弓で鬼門と鬼門返しにそれぞれ1本の矢を射た後、境内にかけられたむしろにつるされた直径35cmの丸い的めがけ10メートルほど離れたところから矢を放つと、見事に命中。回りからは思わず歓声がもれた。これを皮切りに直垂(ひたたれ)にえぼし姿の保存会会長の石塚長一さんと神社総代の笠原精一さん、裃(かみしも)姿の保存会会員などが交代で3本ずつ矢を放った。弓は長さ1.8mほどの地元で「どどめの木」と呼ばれるガマズミの丸木につるを張っただけという素朴なものだけに、思ったように飛ばず、なかには的の上方に張った看板に刺さったり、むしろの上を飛び越す矢もあり、見物の市民の笑いを誘っていた。それでも7本が見事に的に命中、その度に拍手が起き、「景気回復のしるしになれば」という声も聞かれた。
会員に続いて、市民も次々に挑戦、親子連れの中にはわが子の手を取って一緒に弓を引く姿も多く見られた。
石塚会長は「弓は毎年作るが、材料のガマズミが入手しづらくなったので、木を境内に植えて育てている。地元で長く続いた行事を大切に守っていきたい」と話していた。