市民の手作り映画祭としてユニークな活動を続け、ことしで10回目を迎えるKAWASAKIしんゆり映画祭。
そのよびもののひとつ、「なつやすみ野外上映会」がことしも8月28日に麻生小学校で開かれ、多くの市民が「ホテル・ハイビスカス」や沖縄舞踊などを楽しんだ。しかし、今回は大雨に見舞われ、初の雨体験とあってスタッフは会場変更などにおおわらわとなった。
上映会の準備から開催当日までの舞台裏をエピソードをまじえてスタッフの坂田未希子さんに明かしてもらった。
(写真はしんゆり映画祭のボランティアスタッフが制作した「シネマウマシーサー」)
kawasakiしんゆり映画祭の特長のひとつに「カタチから入る」というのがある。
上映作品が決まると、次はその作品をどう盛り上げるかということにスタッフの全精力(?)が注ぎ込まれることになる。例えば、タバコ屋を舞台にした映画『スモーク』(2002年上映)のトークイベントでは、映画さながらのタバコ屋セットが登場、ゲストを驚かせた。銭湯を舞台にした映画『こころの湯』(2002年上映)では、受付に番台が出現。番台に座ったスタッフがちょっと高い位置から来場者をお出迎えした。
このようなサービスは映画を上映する上でおそらく、いや、全く必要のないことなのかもしれない。だいたい、作るのに時間も手間もかかるのである。たった1度の上映のためにここまでやる映画祭が他にあるだろうか。それでも、まずカタチにこだわってしまうのが、しんゆり映画祭なのである。
そんなわけで、今年の野外上映会の作品が『ホテル・ハイビスカス』に決まったとき、おのずと会場は沖縄ムードでいくことに決まった。
屋台のテントにハイビスカスの花を飾り、舞台左右には映画祭のマスコットキャラクターである「シネマウマ」をシーサーにみたてた「シネマウマシーサー」を設置。スタッフの衣装はアロハで、髪にはハイビスカスの花を飾る。沖縄というより、ハワイといえなくもないが、映画がハイビスカスなわけだし、南国の雰囲気がでればよいということにした。
さて、思いつくだけ思いついたものの、作るのは大変である。日本映画学校の学生さんらによる美術班の指導でハイビスカスの花作り講習会が開かれる。大きな画用紙を花びらの形に切り取り、モールでつくった雌しべ(雄しべ?)を中心に5枚の花弁をとめてゆく。これがなかなかうまくできず、悪戦苦闘。当映画祭の某実行委員長は、1つの花を作るのに30分ぐらい格闘していた。
最大の難関はシネマウマシーサーである。そもそも「シネマウマシーサー」とはなんなのか? 学生たちのアイデアで、「シーサーがシネマウマの着ぐるみを被っている」というものになった。新聞紙で作った張りぼてのシネマウマ。その首のあたりから真っ赤なシーサーが顔を出している。想像以上に立派なものになった。
さて当日。あいにくの雨。体育館上の通路には屋台を彩る予定だったハイビスカスが飾られている。美術班の機転で、せっかく作った花が雨でぐしゃぐしゃにしおれてしまうことは免れたようだ。
シネマウマシーサーは、環境デザイナーの岩崎敬さんにライトアップしていただき、ますます威厳が備わったようだ。光が音によって瞬く仕組みになっているのも楽しい。
第一部は和太鼓グループ「雷鼓」の演奏で幕開け。私たちの意気込みを感じ取ってくれたのだろう、髪にはハイビスカスの花をつけてくれている。そんな心意気がとてもうれしい。続く「絃友会」の踊りと演奏ではたっぷり沖縄を堪能。偶然にも映画に出てくる手遊び付きの曲「赤田首里殿内」の演奏もあり、手遊びの図解を出す。映画学校生が書いてくれたかわいいイラスト、シネマウマも登場しての手遊び講習に、会場中が和やかな雰囲気に包まれた。
イベントが始まったころは半分ほどだったお客さんが、上映前には会場いっぱいになっている。雨の中、こうして多くの人が来てくれたのは、野外上映会を楽しみにしてくれていたからだろう。この会が夏休み最後のイベントとして定着してきたことがとてもうれしい。
体育館での上映となったことで、会場内に一体感が生まれたような気がする。上映終了後、中江監督と主演の穂波ちゃんが登場し、最後にカチャーシーを踊るまで、ほとんど帰る人はいなかったようだ。それどころか、みんな楽しそうに踊っていた。
会場の雰囲気と映画の余韻が相まって、会場全体に心地よい空気が流れていたのかもしれない。出口付近でお客さんを送り出していたスタッフに、みんなニコニコしながら帰っていったという話を聞き、ほっとした。それと同時に、狭い出口に人が押し寄せてパニックになることもなかったのは、お客さんの協力があってこそだと感謝するばかりである。
『ホテル・ハイビスカス』の上映が決まったときから絶対にやりたかったのが、出口に垂らした「おやすみかん」の幕。映画の中で、旅に出ていた母を迎えるため「おかえりんご」の垂れ幕を作るのをまねたものだ。終映後、片づけのためにバタバタしてしまい、「おやすみかん」を見上げるお客さんの顔を見る余裕がなかったのが残念だが、きっと、くすくす笑いながら帰ってもらえたと信じている。
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